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仙台高等裁判所 昭和35年(行ウ)1号 決定 1960年8月08日

申立人 中村亀吉

被申立人 黒石市長

主文

本件申立を却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

申立代理人は「被申立人が昭和三四年二月七日申立人に対してなした申立人の黒石市消防団長の職を免ずる旨の処分、及び被申立人が昭和三五年三月二日棟方政春に対してなした同人を右消防団長に任命する旨の処分の執行を停止する。」との裁判を求め、その理由とするところは、

一、申立人は黒石市消防団長の職にあるものであるが、昭和三四年二月七日被申立人より解職処分の通告を受けた。しかし右処分は法令上の根拠を欠く無効のものであるから、これを理由に青森地方裁判所に対して右処分の無効確認の訴を提起したところ、同裁判所は申立人の右請求を容れて、申立人勝訴の判決を言渡した。しかるに被申立人は右判決の確定を妨げるため、仙台高等裁判所に控訴し、右訴訟は同庁昭和三五年(ネ)第二〇三号事件として現に係属中である。

一方被申立人は昭和三五年三月二日その側近者である棟方政春を申立人の後任者として右消防団長に任命したが、前記のとおり申立人の解職処分が無効である以上、右任命処分もまた無効である。

二、そして、右各処分がこの侭執行されれば、次のような償うことのできない損害を生ずる虞がある。すなわち、

(イ)  申立人は第一審で勝訴の判決を受けながら、該判決が確定するまでは黒石市消防団長として、その職務を行うことができない。

(ロ)  申立人の消防団長としての任期は昭和三六年六月三〇日までであるから、この侭訴訟を継続すれば、被申立人の引延し策により、訴訟中に右任期が満了する虞れがあり、かくては申立人のこれまでの訴訟は全く無意義となる。

(ハ)  また被申立人は前記棟方政春をして、ほしいままに黒石市消防団の組織の変更、団員の任免等をなさしめて、その内部を攪乱し、政治的に中立であるべき消防団を政治の道具として利用しつつある。しかして、かかる事態のもとにおいては、同市に火災が発生した場合、消防団員が一致団結して消火に当ることは極めて困難である。

よつて右のような償うことのできない損害を防止するため、前記の無効な免職処分及び任命処分の執行を停止する緊急の必要性があるというのである。

よつて按ずるに、本件記録によれば、申立人がその主張の日に被申請人から黒石市消防団長の職を免ぜられたこと、及び棟方政春が昭和三五年三月三日付をもつて被申立人から申立人の後任者として消防団長の職に任命されたことが明らかであり、また申立人が右免職処分の無効確認を求める訴を提起し、第一審において勝訴判決を受け、目下控訴審において審理中であるが本件記録に顕われた限りにおいては、右解職処分はその権限につき法令上の根拠を欠き無効のものであることが認められる。従つて申立人の解職処分が適法であることを前提としてなされた棟方政春の右任命処分もまた無効たるを免れない。

しかしながら、申立人主張の前記(イ)の申立人が黒石市消防団長としてその職務を行うことのできない損害はこれが行政事件訴訟特例法第一〇条第二項に定める「償うことのできない損害」に該当するとしても、申立人の主張によつては未だ右損害を避けるための緊急の必要あるものとは認められないし、(ロ)の損害は、本件解職処分によつて生ずる直接の結果ではなく、また(ハ)の損害は黒石市民または同市消防団の被る損害であつて、これら(ロ)、(ハ)の損害はいずれも前記のいわゆる「償うことのできない損害」というに足らず、ましてこれを避けるための緊急の必要あるものとも認められない。

よつて本件申立はこれを却下すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 村上武 上野正秋 鍬守正一)

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